Ryuz's tech blog

FPGAなどの技術ブログ

特許と論文と新規性と進歩性と実用性と

はじめに

例によってFPGA大好き人間が、その狭い視点から書く話なので、一つの戯言としてご容赦ください。

エンジニアの世界では特許、アカデミックな世界では論文、と言う形で成果を世の中に出していくことが多いと思います。

AIに聞いてみると「毎年一人1件の特許出願がノルマ」なんていう組織もまだまだ結構残ってるようですので、否応なしに書いてるエンジニアや研究者もいるでしょうし、アカデミックも分野によってはある程度の頻度で論文出していかないと生き残れない人たちも多いのかと思います。

正直私は書くのはどちらも苦手というか、特許明細書を少し書いたことがあるぐらいで弁理士さん任せの事も多かったです。論文の方は研究の方に協力して連名に入れてもらう事はあれど、ほとんど自分では書いたことなかったりします。

なので今回は、書く話ではなくて、書くためのネタ作りとして、新規性と進歩性のある研究開発について駄文を書いてみようというものです。

新規性と進歩性

書いたことある人には釈迦に説法ですが、特許法では新規性と進歩性を有していることを要件としています。

特許法における新規性は「新しいものであること」、進歩性は「容易に思いつけないものであること」となるわけですが、論文においてもこの二つの要素は重要かと思います。

これらは 雑に解釈 すると「世界初で世界一の研究開発をしなさい」と言ってるわけです。

そういってしまうとなんか凄そうなのですが、実際には「そんな課題で困ってるのは世界でお前のとこだけだ」みたいな超狭い分野の課題を研究テーマにすれば割と簡単に世界初になれますし、まっとうにスキルを身に着けて課題に取り組めば、その狭い分野の世界一になるのもそこまで難しくありません(というかそんな研究してる人間一人しかいとかなら自然と世界一です)。 そもそも特許に関していえば「自社固有の課題」に取り組んで、製品化前に知財防衛として出願しておくようなものは多いかと思います。

逆に言うと特許や論文の良し悪しは「如何に大勢の役に立つ世界初をやれたか」の方にあり、キルビー特許みたいなのとか、「Attention Is All You Need」みたいな広い範囲で実用且つ、大きな進歩性を持つ特許/論文の効力は絶大だったりするわけです。この点は、特許も論文も後になってリファレンス数などとして現れてきますので、結局評価は時間という未来の歴史に委ねることになります。

いずれにせよ新規性と進歩性の二つは特許でははもちろん必須ですし、論文でもちゃんと理解しておかないと苦戦することが多いように思います。

少なくとも「二番じゃダメなんですか?」と聞かれれば「はい駄目です」となります。

実用性

ここが特許と論文の一番の差ではないかと思いますが、特許法で「産業上利用することができる発明」と書かれているので世の中で実用性がある必要があります。

一方、論文は学術的価値が重要ですので学部によってだいぶ毛色が変わってくるところだと思います。とはいえ「工学部」に関してはここもかなり求められて来てしまう気はしています。 理学部とかで、数学科とか物理学科とかだとまた全然違うのだとは思いますが。

私の得意としている分野は、情報処理系とはいえ、一応工学系の分野なので、やはり実用性を言われがちで、早い話が「なんの役に立つの?」と言う質問はすぐ飛んで来ます。

これは特許だと役に立つ例を1例書いておけばいいのであまり問題にならないのですが、論文の場合うまく説明しないと、解決しようとしている課題に対して、研究テーマの手法とは全然違う、別のもっと良いやり方を引き合いに出されて研究の価値を否定されてしまう事もしばしばあるようです。

同じ課題に対して解決しようとする手法が複数ある場合、多くは

  • 手法ごとに一長一短あるケースが多い
  • 手法を併用できるケースも多少ある

などありますので、しっかりと該当分野を調べて、「でもこういうケースではこちらの手法が有利です」とか、「でも、この手法も追加すればさらに良くなります」とか、反論できる理論武装をしっかりとしておく必要があります。

FPGA使った研究について

研究などで「既存のアルゴリズムを超苦労してFPGA化しました」みたいなのはよく聞くわけです。実際ビジネスシーンではこういうのばっかりですから、社会に出て役立つスキルを大学で学ぶという観点ではとても正しいのですが、特許や論文にしようとすると苦労が報われなかったりするので、同じ苦労するならちゃんとこの2点を最初に織り込んでおくことが大事だと思います。

特に、同じアルゴリズムを他の人が既にFPGA化してるケースなんてのも非常に多いです。学士の卒業論文ぐらいならまだ許されますが、修士、博士となってくると「他人の実装と比べて何が新規なの?、どこが進歩したの?」的な観点でマサカリが飛んで来ますし、しばしば最先端プロセスで作られた安くて速くて低消費電力なGPUと比べられて撃沈してしまうわけです。

ではどうやって FPGA での取り組みに、新規性/進歩性/実用性を見出すかという話になるわけですが、私のお勧めとしては

  • CPU/GPUが適用困難と言う理由で、既にFPGAが使われている分野への応用を目指す
  • 特殊デバイスとの連携/超低遅延/並列同期制御など FPGA固有のメリット生かした新規提案を目指す
  • FPGAの構造固有の活用方法を提案する

あたりでしょうか。

通信機器や制御装置などFPGAが既に活躍していてる既存分野をターゲットにして、「今までAIなんて考えてもいなかった場所にAIを入れ込みます」となれば新規性を生み出せます。

またこちらで書いたようなFPGAが得意とする処理を前提に「特定のデバイスから出てくるデータのタイミングで最適なモデルと回路を作る」、「遅延を最小化するためにモデルを組み替える」、「複数センサーのタイミング制御に強く依存するデータを取り扱う」など深いところに掘り下げていけば進歩性も生れてきます。

最後のものは私のLUT-Netなどが該当するかと思いますが、FPGAを前提に実装方式の改善提案等であれば、これもまた新規性や進歩性が生まれてきます。

おわりに

世の中には 0から1を生み出すのが得意な人と、1を10にするのが得意な人とが居るわけで、どちらもとても大事な事なのですが、後者の人がしばし特許や論文で苦戦する傾向にあるようにも思います。

まあそもそも AI じゃなくてもいいんじゃない感もあるんですが、「AIやってみたい」、「なんかFPGA面白そう」という若手の方々はいっぱいいるわけで、是非是非やって欲しいのですが、苦労した挙句「FPGAなんかやるんじゃなかった」と思われてしまうととても悲しいことにならないように、「それはどういう課題を解決しうるのか」、「他の方式と比べてメリットデメリットは何か?」、「研究開発として取り組むべき課題は何なのか」、そういったことを考えながら進めるという事が大事なのではないかと思う次第です。

後でこじつけるケースも多々ありますし、私もわりとそのクチですが、とりかかる前に整理しておくと、あとあと楽ができるのではないかとは思います。